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2011.02.18 A2Z番外編 渋谷
A2Z
臨時改札をくぐると左手には今日も、愛・地球博のカウントダウンが掲示されている。523日…一年よりもずっと後。それはずっと先のように思える。1日ずつ減っていって0になる日が来ると思うと、夢はなぜかこわかった。
ハチ公前のベンチに座って「ハチ公から見て左側にいるよ」と待ち合わせの男にメールを送ると、隣のおじさんから声がかかった。

「4枚でどう?」

ハチ公前のベンチは、どうやらそういうやり取りに使われている場所らしいのだ。それから道玄坂にサブバックを抱えてる女性もそうなんですって。
夢は答えずに立ち上がって、歩き出すと約束の男がやってきた。亮人。

亮人は、この間渋谷でナンパされた男で、夢は実は彼の顔に覚えがあったのだ。彼はサングラスをかけていて、以前は金髪に近いほどの茶髪だったのが、今は黒く染まっていた。
カラオケ店の前に着くと、彼は躊躇いながら、そのサングラスを外した。

「…覚えてない?」

ああ、やっぱり。
亮人は二年前、夢が高校一年生の時にナンパされて、家にも行ったことがある彼だったのだ。その時には、夢は他に好きな男ができて告白にノーと答えた。
すると彼は区切りを付ける、アドレスも電話番号も消すと伝えてきたから、夢も彼のデータは消してしまっていた。

「髪の毛黒くしたんだね。」
「保険会社だから。」

嘘か本当か、彼は東大を卒業したと言っていた。明らかに嘘らしい故に、本当なのかもしれないなと夢は思っていた。嘘をつくならもっと本当らしい嘘をつくだろう。

「夢の学校に、朝日ってやついなかった?」
「いた。なんで知ってるの?」
「センター街にいたら、知ってるよ。そこそこの学生らの溜まり場だから。」

だけど、その男は大学生も越えて社会人だ。
朝日とは一個上の先輩で、「チャラい」と有名な男だった。

「なにそれ」
「連絡先とかは知らないの。でもセンター街に行けば、誰かしらはいるんだよ。」
「あ、ねぇ、それなら諸橋って知ってる?」
「なに、あいつ知ってるの?」

知ってる。
諸橋と知り合ったのは、高校の文化祭でだ。高校の文化祭には、ナンパを目的とした、高校生、大学生もやってきて、警察も動く。大学の文化祭には制服を着ていくと、メールアドレスを聞く為に列ができるという。

諸橋ともう一人、裕也に声をかけられて、夢は裕也と仲良くなっていた時期があった。諸橋は当時、ティーン雑誌のモデルをやっていて、有名なモデルとのツーショットプリクラを見せびらかしていた。代官山だかに一人暮らしをしていて夢の友達は連れ込まれてやられそうになったけど、かわしたらしい。
そんなことがあった後で、高校の友達のプリクラ帳にあったのは、同級生が諸橋と写ったプリクラだった。同級生に話を聞くと、彼氏、だと言うのだ。
どう聞いても、その同級生は騙されていた。

夢は裕也に会った時に、諸橋って偽名でしょ?と尋ねたら、そうだよ、文化祭ごとにあいつは名前を変えてアドレスも変えてるんだよ、と教えられた。

「諸橋、って、てか本当は斉藤なんだよね。今どうしてんの?」
「あいつ、彼氏持ちの女に手出したんだよ。それまでも諸橋がやってたことって酷いから、みんな集まってボコボコにされて、今入院してるよ。」



諸橋の家に行った夢の友達は、先日裕也と会ったらしい。
金髪だった彼も髪の毛は黒く染まって、しかも太っていたようだ。
大学院に現在いる彼はそう言えば高校生だった夢に
「総理大臣になるんだ。」と言っていた。


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