2011.04.08
A2Z-I 風に寄せて
彼は練習熱心だから、弦から、火が出て火事になるかもね。
とわたしの音楽の先生は言いました。
わたしがその彼のお部屋に忍びこむことに成功して
たくさんお友達がいる中で
布団をかぶりながら
「お腹が空いた」
といったら
そのI先輩は、
「それなら僕の小指を食べたらいいよ」
と言いました。
わたしはその先輩の小指を食べました。
その小指は火事を起こし得る指でした。
「先輩、先輩って自分のお城が欲しいと思っていそう」
「そうだねぇ、僕は僕の城が欲しいな」
わたしはI先輩のことが好きになってしまいました。
デートをしました。
I先輩はわたしに海岸で先輩の音楽を聞かせました。
真夏の日に。
わたしを連れて、わたしの前で聞かせてくれました。
声をひそめて忍び込んだ先で。
彼はわたしの憧れでした。
わたしは色んなエッチなことをしました。
先輩を縛ったり、お尻に指をいれたりしました。
わたしが男の人の射精するところを見たのは、I先輩が初めてでした。
わたしが男の人の頬をつよくぶったのも、彼が初めてでした。
そうしてるうちに気付いたらI先輩はわたしのものになっていました。
わたしとIが別れたのは、チャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトを聞きに行った日でした。
「夢は、僕と出会って恋からSMへと関係が変わっていって、それを別々にしなければならないと決めた。でも、今それを一緒にしてると思うと、なんだか相手の男がずるく思えて無性に腹立つんだよ。」
とIは言いました。
「まるで、逆走だ。」
「でも、Iとの経験があって今があるんだよ。」
「それはわかっているけど」
「夢のことをね、追いかけるのを僕はいつの間にかやめたんだ。もうやめたんだ。
夢は、僕とは別の星に生きているんだと思ってね。
僕には夢の星へ行く宇宙服がないんだ。
そう思ってあきらめたのに。」
わたしは、結局Iがなにを話したかったよくわかりません。
I自身もわかっていないようでした。
でもなんとなくわかった気もしています。
ただ、私はかつての憧れのI先輩の口振りを懐かしく、味わっていました。
あの時、火事が起きたのはわたしの心だったようでしたが
今はそれは鎮火しているのです。
とわたしの音楽の先生は言いました。
わたしがその彼のお部屋に忍びこむことに成功して
たくさんお友達がいる中で
布団をかぶりながら
「お腹が空いた」
といったら
そのI先輩は、
「それなら僕の小指を食べたらいいよ」
と言いました。
わたしはその先輩の小指を食べました。
その小指は火事を起こし得る指でした。
「先輩、先輩って自分のお城が欲しいと思っていそう」
「そうだねぇ、僕は僕の城が欲しいな」
わたしはI先輩のことが好きになってしまいました。
デートをしました。
I先輩はわたしに海岸で先輩の音楽を聞かせました。
真夏の日に。
わたしを連れて、わたしの前で聞かせてくれました。
声をひそめて忍び込んだ先で。
彼はわたしの憧れでした。
わたしは色んなエッチなことをしました。
先輩を縛ったり、お尻に指をいれたりしました。
わたしが男の人の射精するところを見たのは、I先輩が初めてでした。
わたしが男の人の頬をつよくぶったのも、彼が初めてでした。
そうしてるうちに気付いたらI先輩はわたしのものになっていました。
わたしとIが別れたのは、チャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトを聞きに行った日でした。
「夢は、僕と出会って恋からSMへと関係が変わっていって、それを別々にしなければならないと決めた。でも、今それを一緒にしてると思うと、なんだか相手の男がずるく思えて無性に腹立つんだよ。」
とIは言いました。
「まるで、逆走だ。」
「でも、Iとの経験があって今があるんだよ。」
「それはわかっているけど」
「夢のことをね、追いかけるのを僕はいつの間にかやめたんだ。もうやめたんだ。
夢は、僕とは別の星に生きているんだと思ってね。
僕には夢の星へ行く宇宙服がないんだ。
そう思ってあきらめたのに。」
わたしは、結局Iがなにを話したかったよくわかりません。
I自身もわかっていないようでした。
でもなんとなくわかった気もしています。
ただ、私はかつての憧れのI先輩の口振りを懐かしく、味わっていました。
あの時、火事が起きたのはわたしの心だったようでしたが
今はそれは鎮火しているのです。
2011.04.01
A2Z-H Baby Don't Cry
「夢ちゃんなんで、僕とはプレイしてくれないの。他の人としないで。僕とSMのどっちが大事なの?」
Hが何度目かもわからない質問を、投げかけた。
思えば、私とHは付き合ってから今まで、この繰り返しを延々と続けてきていた。きちんと解決することはなかった。
私は、引くつもりはなかったので、Hを宥める形でいつも終わった。
なにかがあるとHはこの話を持ち出してきた。
私は嫉妬の渦にもまれて、苦しかった。
Hは、軽いパニック障害になってしまった。血を吐いて入院した。痩せてしまった。
彼は初め私の奴隷だったのだ。彼もSMにとりつかれた一人だったのだ。
Hは私が他人とプレイするのを酷く嫌がっていて、その嫉妬に呪われているように見えた。こわかった。
私はプレイパートナーと撮った写真をHの家に落として忘れてしまったことがあるのだが、彼はそれを手に射精をしたらしい。
勃起はしないのに、だけどどうしようもできなくてそうするのだ、と、わざわざ私に報告してきた。
その光景を思い浮かべるとなんだかゾッとした。
彼がマゾではなかったらば、果たしてここまで嫉妬したのだろうか。
私は、宥めることにも疲れてしまい、嘘をつくようになった。そうすると今度は嘘をつくことに疲れてしまった。
別れることにした。
話をした時は既に夜遅く、私たちはラブホテルに入って、話の続きをすることにした。
彼は、医者からもらった薬を規定量を多く越えて飲み続けていた。
朦朧としているようで、馬鹿げているが、殺されるかも、とホテルに入ったことを後悔した。
何度も縋られたが、丁寧に話し続けた。
Hは私を抱こうとした。私は最後にそれを受け入れようとしたが、いざHが私に入ってくると、私は泣いてしまった。
Hはやめて謝った。
「やっぱり、気持ちなんだね…夢ちゃん」
そう。私はHとこうすることが大好きだったのに。
何度も何度もしたのに最後の一回でも、それはできなかったのだ。
Hは私に優しかった。好きだった頃のように優しかった。
私はもう眠りたかった。
だから、もう一度付き合おうと言って、眠ってしまった。
朝起きると顔色の悪いHが
「昨日は無理矢理言わせたね、やっぱりだめだよね」
と言ったから私は頷いた。
私たちは別々に歩き出した。
Hの左手には、私の右手には、人を殺すことになるジェットコースターが見えていた。
その後会ったHは健康そうだった。
とりつかれていたんだね。何かに二人とも。
Hが何度目かもわからない質問を、投げかけた。
思えば、私とHは付き合ってから今まで、この繰り返しを延々と続けてきていた。きちんと解決することはなかった。
私は、引くつもりはなかったので、Hを宥める形でいつも終わった。
なにかがあるとHはこの話を持ち出してきた。
私は嫉妬の渦にもまれて、苦しかった。
Hは、軽いパニック障害になってしまった。血を吐いて入院した。痩せてしまった。
彼は初め私の奴隷だったのだ。彼もSMにとりつかれた一人だったのだ。
Hは私が他人とプレイするのを酷く嫌がっていて、その嫉妬に呪われているように見えた。こわかった。
私はプレイパートナーと撮った写真をHの家に落として忘れてしまったことがあるのだが、彼はそれを手に射精をしたらしい。
勃起はしないのに、だけどどうしようもできなくてそうするのだ、と、わざわざ私に報告してきた。
その光景を思い浮かべるとなんだかゾッとした。
彼がマゾではなかったらば、果たしてここまで嫉妬したのだろうか。
私は、宥めることにも疲れてしまい、嘘をつくようになった。そうすると今度は嘘をつくことに疲れてしまった。
別れることにした。
話をした時は既に夜遅く、私たちはラブホテルに入って、話の続きをすることにした。
彼は、医者からもらった薬を規定量を多く越えて飲み続けていた。
朦朧としているようで、馬鹿げているが、殺されるかも、とホテルに入ったことを後悔した。
何度も縋られたが、丁寧に話し続けた。
Hは私を抱こうとした。私は最後にそれを受け入れようとしたが、いざHが私に入ってくると、私は泣いてしまった。
Hはやめて謝った。
「やっぱり、気持ちなんだね…夢ちゃん」
そう。私はHとこうすることが大好きだったのに。
何度も何度もしたのに最後の一回でも、それはできなかったのだ。
Hは私に優しかった。好きだった頃のように優しかった。
私はもう眠りたかった。
だから、もう一度付き合おうと言って、眠ってしまった。
朝起きると顔色の悪いHが
「昨日は無理矢理言わせたね、やっぱりだめだよね」
と言ったから私は頷いた。
私たちは別々に歩き出した。
Hの左手には、私の右手には、人を殺すことになるジェットコースターが見えていた。
その後会ったHは健康そうだった。
とりつかれていたんだね。何かに二人とも。
2011.02.23
A2Z-G 追われる
熱くて思わず離したライターは、蓋が熱で溶けて二度と開かなくなってしまった。
和蝋燭で、熱しそびれた鉄の棒を炙り直すとそれは煙をあげた。
鉄の棒とは、爪を剥がそうと準備していたドライバーだった。
それを、Gの肌に押し付けると、思っていたより声があがらなかった。
短く、耐えきれないように声が漏れた。
「ご主人様、愛しています。」
途切れ途切れに、悲鳴の隙間をぬって紡がれた言葉は、今の私には届かない。
視界は赤だ。
赤く染まって頭は、別物のように、キンと血をあげて、動かない。固まってしまった。
いや、どこか一方向だけを目指しているかのようだ。
ドライバーを外すと肉は黒く焦げていて、鉄には皮膚がくっついていた。
「ご主人様が望むならば、許されるならばどんな形でも一緒にいたいんです。」
とGは這いつくばって、床を濡らした。
止まらない涙で床を濡らした。
私はその床を上から赤く濡らすことにした。
何故なんだ。何故なんだろう。
私がする、どんなことにも、Gはあまり大きく反応しなかった。
それよりも言葉に強く反応した。
「お前は、いらない。どんな形になったっていらない。」
指先に針を刺すと、気を失った。血は流れ続けているのに。
人に刺す為にない針は、こちらの手が痛くなる程であったから
頬を叩いて起こして、今度は手袋を嵌めて、押し込んだ。
濡れたそれで、肌に絵を書いていると、笑い声が響く。
「利用されるのだって、なんだっていいんです。お金だとか。一瞬でも笑顔が見られるなら。」
「私はお前に顔を見せたくもない。」
手を吊り上げて、鞭を振り回すと、うっとりしたようにGは私を見つめる。
肌は赤黒くなっていく。
「好きなんです。ご主人様。ご主人様とは線を超えてしまった。」
視界は赤だ。
にじみ出てくる血の色。
「知っていますか、ご主人様とはプレイした次の日に心に響くんです。」
Gが誰を見ているのか、不安になって、私はまた鉄を押し付けた。
でもそれには、あまり反応はないのだ。
「ずっとずっと一緒にいたい。」
焦げた肌。
言葉が私を追い立てて
逃げるように、赤に染まっていった。
染まっていくと、私の口からは笑い声が漏れていった。
和蝋燭で、熱しそびれた鉄の棒を炙り直すとそれは煙をあげた。
鉄の棒とは、爪を剥がそうと準備していたドライバーだった。
それを、Gの肌に押し付けると、思っていたより声があがらなかった。
短く、耐えきれないように声が漏れた。
「ご主人様、愛しています。」
途切れ途切れに、悲鳴の隙間をぬって紡がれた言葉は、今の私には届かない。
視界は赤だ。
赤く染まって頭は、別物のように、キンと血をあげて、動かない。固まってしまった。
いや、どこか一方向だけを目指しているかのようだ。
ドライバーを外すと肉は黒く焦げていて、鉄には皮膚がくっついていた。
「ご主人様が望むならば、許されるならばどんな形でも一緒にいたいんです。」
とGは這いつくばって、床を濡らした。
止まらない涙で床を濡らした。
私はその床を上から赤く濡らすことにした。
何故なんだ。何故なんだろう。
私がする、どんなことにも、Gはあまり大きく反応しなかった。
それよりも言葉に強く反応した。
「お前は、いらない。どんな形になったっていらない。」
指先に針を刺すと、気を失った。血は流れ続けているのに。
人に刺す為にない針は、こちらの手が痛くなる程であったから
頬を叩いて起こして、今度は手袋を嵌めて、押し込んだ。
濡れたそれで、肌に絵を書いていると、笑い声が響く。
「利用されるのだって、なんだっていいんです。お金だとか。一瞬でも笑顔が見られるなら。」
「私はお前に顔を見せたくもない。」
手を吊り上げて、鞭を振り回すと、うっとりしたようにGは私を見つめる。
肌は赤黒くなっていく。
「好きなんです。ご主人様。ご主人様とは線を超えてしまった。」
視界は赤だ。
にじみ出てくる血の色。
「知っていますか、ご主人様とはプレイした次の日に心に響くんです。」
Gが誰を見ているのか、不安になって、私はまた鉄を押し付けた。
でもそれには、あまり反応はないのだ。
「ずっとずっと一緒にいたい。」
焦げた肌。
言葉が私を追い立てて
逃げるように、赤に染まっていった。
染まっていくと、私の口からは笑い声が漏れていった。
2011.02.22
A2Z-F ゆたんぽ
「ゆんちゃんが、他の男の子とデートするのと、ただセックスするだけなのと、どっちが嫌だ?」
肌をすりすりとすり合わせながら頭を肩に預けて、尋ねた。
肌をこすり合わせるのはどうして、こんなに気持ちいいのだろう。ずっとすり合わせていたい。
「ゆんちゃん、ゆんちゃんはフォアグラと白子どっちが好き?」
私はそう尋ね返されて、肘をついてFを上から覗いた。
そして勢い良く答える。
「ゆんちゃんは、フォアグラのが好きー」
「じゃあ、とっておきの白子とそこそこのフォアグラだったら?」
「だったら白子。」
「毎日フォアグラだったら、白子食べたくもなるでしょ。」
「うん、つまりどっちも、とびきり嫌だってことね?」
勝ち誇ったように、また肘を折って今度はFの身体の上に乗る。
それからは私は、甘えたように、ゆんゆんゆん、と鳴く。
肌をすり合わせてくっついていると、いつの間にかセックスになってしまう。
何故なら一番近くですり合わせられるのがそれだから。人間の身体って気持ち良くなれるようにできてるのね。
たくさんの面積をくっつかせていたい。
鎖骨の辺りを舐めたり噛んだりして遊んでいたら、Fは私の髪を撫でるからまたゆんゆんゆんと鳴いた。
「ゆんちゃんに嫌われるのが、うざがられるのが嫌だから、言わないけど、本当はすごく嫉妬してるよ。」
「そなの?」
「また、他の子と遊び行った、セックスした、プレイした…」
それまで、とろけてうっとりしていたのが、こういう台詞を聞くと意地悪い笑みが浮かんでしまうのが自分でもわかる。
そうなの?
なんて白々しく言ったけど、本当は知っている。
どこまでわかっているかはわからないけど、大体自分の行動が相手に湧かせる感情はわかっているように思う。
「平気なふりして、楽しんでおいで、って言ってるけどハラワタ煮えくり返ってるよ。そのまま剥き出しで、嫉妬したら、ゆんちゃんは熱くて嫌で逃げちゃうでしょ?ハラワタ煮えくり返るくらいだとゆんちゃんには暖かい。」
「ん、熱いのは嫌」
平気なふりの表情も私はすごい好きなんだ。
笑ってるのに苦しそうなんだもん。
「僕のハラワタ煮えくり返った熱でゆんちゃんは暖をとるの。」
そうなの。暖かくて気持ちいいんだ。
湯たんぽみたい。
Fはふざけたように
「ゆんちゃんひどい~」
と繰り返したから
私は泣き声のように「ゆんちゃんはひどくないもん」と言って引っ掻いた。
そうしたらFは
「うん、ゆんちゃんはひどくないね。ゆんちゃんはいい子。」
と言って、一番近いところで肌をこすり合わせることにした。
ゆんちゃんいい子ゆんちゃんいい子、の繰り返しは
気づいたらいつの間にか、ゆんちゃん悪い子
になっていた。
ゆんゆんゆん。
肌をすりすりとすり合わせながら頭を肩に預けて、尋ねた。
肌をこすり合わせるのはどうして、こんなに気持ちいいのだろう。ずっとすり合わせていたい。
「ゆんちゃん、ゆんちゃんはフォアグラと白子どっちが好き?」
私はそう尋ね返されて、肘をついてFを上から覗いた。
そして勢い良く答える。
「ゆんちゃんは、フォアグラのが好きー」
「じゃあ、とっておきの白子とそこそこのフォアグラだったら?」
「だったら白子。」
「毎日フォアグラだったら、白子食べたくもなるでしょ。」
「うん、つまりどっちも、とびきり嫌だってことね?」
勝ち誇ったように、また肘を折って今度はFの身体の上に乗る。
それからは私は、甘えたように、ゆんゆんゆん、と鳴く。
肌をすり合わせてくっついていると、いつの間にかセックスになってしまう。
何故なら一番近くですり合わせられるのがそれだから。人間の身体って気持ち良くなれるようにできてるのね。
たくさんの面積をくっつかせていたい。
鎖骨の辺りを舐めたり噛んだりして遊んでいたら、Fは私の髪を撫でるからまたゆんゆんゆんと鳴いた。
「ゆんちゃんに嫌われるのが、うざがられるのが嫌だから、言わないけど、本当はすごく嫉妬してるよ。」
「そなの?」
「また、他の子と遊び行った、セックスした、プレイした…」
それまで、とろけてうっとりしていたのが、こういう台詞を聞くと意地悪い笑みが浮かんでしまうのが自分でもわかる。
そうなの?
なんて白々しく言ったけど、本当は知っている。
どこまでわかっているかはわからないけど、大体自分の行動が相手に湧かせる感情はわかっているように思う。
「平気なふりして、楽しんでおいで、って言ってるけどハラワタ煮えくり返ってるよ。そのまま剥き出しで、嫉妬したら、ゆんちゃんは熱くて嫌で逃げちゃうでしょ?ハラワタ煮えくり返るくらいだとゆんちゃんには暖かい。」
「ん、熱いのは嫌」
平気なふりの表情も私はすごい好きなんだ。
笑ってるのに苦しそうなんだもん。
「僕のハラワタ煮えくり返った熱でゆんちゃんは暖をとるの。」
そうなの。暖かくて気持ちいいんだ。
湯たんぽみたい。
Fはふざけたように
「ゆんちゃんひどい~」
と繰り返したから
私は泣き声のように「ゆんちゃんはひどくないもん」と言って引っ掻いた。
そうしたらFは
「うん、ゆんちゃんはひどくないね。ゆんちゃんはいい子。」
と言って、一番近いところで肌をこすり合わせることにした。
ゆんちゃんいい子ゆんちゃんいい子、の繰り返しは
気づいたらいつの間にか、ゆんちゃん悪い子
になっていた。
ゆんゆんゆん。
2011.02.18
A2Z番外編 渋谷
臨時改札をくぐると左手には今日も、愛・地球博のカウントダウンが掲示されている。523日…一年よりもずっと後。それはずっと先のように思える。1日ずつ減っていって0になる日が来ると思うと、夢はなぜかこわかった。
ハチ公前のベンチに座って「ハチ公から見て左側にいるよ」と待ち合わせの男にメールを送ると、隣のおじさんから声がかかった。
「4枚でどう?」
ハチ公前のベンチは、どうやらそういうやり取りに使われている場所らしいのだ。それから道玄坂にサブバックを抱えてる女性もそうなんですって。
夢は答えずに立ち上がって、歩き出すと約束の男がやってきた。亮人。
亮人は、この間渋谷でナンパされた男で、夢は実は彼の顔に覚えがあったのだ。彼はサングラスをかけていて、以前は金髪に近いほどの茶髪だったのが、今は黒く染まっていた。
カラオケ店の前に着くと、彼は躊躇いながら、そのサングラスを外した。
「…覚えてない?」
ああ、やっぱり。
亮人は二年前、夢が高校一年生の時にナンパされて、家にも行ったことがある彼だったのだ。その時には、夢は他に好きな男ができて告白にノーと答えた。
すると彼は区切りを付ける、アドレスも電話番号も消すと伝えてきたから、夢も彼のデータは消してしまっていた。
「髪の毛黒くしたんだね。」
「保険会社だから。」
嘘か本当か、彼は東大を卒業したと言っていた。明らかに嘘らしい故に、本当なのかもしれないなと夢は思っていた。嘘をつくならもっと本当らしい嘘をつくだろう。
「夢の学校に、朝日ってやついなかった?」
「いた。なんで知ってるの?」
「センター街にいたら、知ってるよ。そこそこの学生らの溜まり場だから。」
だけど、その男は大学生も越えて社会人だ。
朝日とは一個上の先輩で、「チャラい」と有名な男だった。
「なにそれ」
「連絡先とかは知らないの。でもセンター街に行けば、誰かしらはいるんだよ。」
「あ、ねぇ、それなら諸橋って知ってる?」
「なに、あいつ知ってるの?」
知ってる。
諸橋と知り合ったのは、高校の文化祭でだ。高校の文化祭には、ナンパを目的とした、高校生、大学生もやってきて、警察も動く。大学の文化祭には制服を着ていくと、メールアドレスを聞く為に列ができるという。
諸橋ともう一人、裕也に声をかけられて、夢は裕也と仲良くなっていた時期があった。諸橋は当時、ティーン雑誌のモデルをやっていて、有名なモデルとのツーショットプリクラを見せびらかしていた。代官山だかに一人暮らしをしていて夢の友達は連れ込まれてやられそうになったけど、かわしたらしい。
そんなことがあった後で、高校の友達のプリクラ帳にあったのは、同級生が諸橋と写ったプリクラだった。同級生に話を聞くと、彼氏、だと言うのだ。
どう聞いても、その同級生は騙されていた。
夢は裕也に会った時に、諸橋って偽名でしょ?と尋ねたら、そうだよ、文化祭ごとにあいつは名前を変えてアドレスも変えてるんだよ、と教えられた。
「諸橋、って、てか本当は斉藤なんだよね。今どうしてんの?」
「あいつ、彼氏持ちの女に手出したんだよ。それまでも諸橋がやってたことって酷いから、みんな集まってボコボコにされて、今入院してるよ。」
諸橋の家に行った夢の友達は、先日裕也と会ったらしい。
金髪だった彼も髪の毛は黒く染まって、しかも太っていたようだ。
大学院に現在いる彼はそう言えば高校生だった夢に
「総理大臣になるんだ。」と言っていた。
ハチ公前のベンチに座って「ハチ公から見て左側にいるよ」と待ち合わせの男にメールを送ると、隣のおじさんから声がかかった。
「4枚でどう?」
ハチ公前のベンチは、どうやらそういうやり取りに使われている場所らしいのだ。それから道玄坂にサブバックを抱えてる女性もそうなんですって。
夢は答えずに立ち上がって、歩き出すと約束の男がやってきた。亮人。
亮人は、この間渋谷でナンパされた男で、夢は実は彼の顔に覚えがあったのだ。彼はサングラスをかけていて、以前は金髪に近いほどの茶髪だったのが、今は黒く染まっていた。
カラオケ店の前に着くと、彼は躊躇いながら、そのサングラスを外した。
「…覚えてない?」
ああ、やっぱり。
亮人は二年前、夢が高校一年生の時にナンパされて、家にも行ったことがある彼だったのだ。その時には、夢は他に好きな男ができて告白にノーと答えた。
すると彼は区切りを付ける、アドレスも電話番号も消すと伝えてきたから、夢も彼のデータは消してしまっていた。
「髪の毛黒くしたんだね。」
「保険会社だから。」
嘘か本当か、彼は東大を卒業したと言っていた。明らかに嘘らしい故に、本当なのかもしれないなと夢は思っていた。嘘をつくならもっと本当らしい嘘をつくだろう。
「夢の学校に、朝日ってやついなかった?」
「いた。なんで知ってるの?」
「センター街にいたら、知ってるよ。そこそこの学生らの溜まり場だから。」
だけど、その男は大学生も越えて社会人だ。
朝日とは一個上の先輩で、「チャラい」と有名な男だった。
「なにそれ」
「連絡先とかは知らないの。でもセンター街に行けば、誰かしらはいるんだよ。」
「あ、ねぇ、それなら諸橋って知ってる?」
「なに、あいつ知ってるの?」
知ってる。
諸橋と知り合ったのは、高校の文化祭でだ。高校の文化祭には、ナンパを目的とした、高校生、大学生もやってきて、警察も動く。大学の文化祭には制服を着ていくと、メールアドレスを聞く為に列ができるという。
諸橋ともう一人、裕也に声をかけられて、夢は裕也と仲良くなっていた時期があった。諸橋は当時、ティーン雑誌のモデルをやっていて、有名なモデルとのツーショットプリクラを見せびらかしていた。代官山だかに一人暮らしをしていて夢の友達は連れ込まれてやられそうになったけど、かわしたらしい。
そんなことがあった後で、高校の友達のプリクラ帳にあったのは、同級生が諸橋と写ったプリクラだった。同級生に話を聞くと、彼氏、だと言うのだ。
どう聞いても、その同級生は騙されていた。
夢は裕也に会った時に、諸橋って偽名でしょ?と尋ねたら、そうだよ、文化祭ごとにあいつは名前を変えてアドレスも変えてるんだよ、と教えられた。
「諸橋、って、てか本当は斉藤なんだよね。今どうしてんの?」
「あいつ、彼氏持ちの女に手出したんだよ。それまでも諸橋がやってたことって酷いから、みんな集まってボコボコにされて、今入院してるよ。」
諸橋の家に行った夢の友達は、先日裕也と会ったらしい。
金髪だった彼も髪の毛は黒く染まって、しかも太っていたようだ。
大学院に現在いる彼はそう言えば高校生だった夢に
「総理大臣になるんだ。」と言っていた。