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彼は練習熱心だから、弦から、火が出て火事になるかもね。

とわたしの音楽の先生は言いました。

わたしがその彼のお部屋に忍びこむことに成功して
たくさんお友達がいる中で
布団をかぶりながら

「お腹が空いた」
といったら
そのI先輩は、
「それなら僕の小指を食べたらいいよ」
と言いました。
わたしはその先輩の小指を食べました。
その小指は火事を起こし得る指でした。

「先輩、先輩って自分のお城が欲しいと思っていそう」
「そうだねぇ、僕は僕の城が欲しいな」

わたしはI先輩のことが好きになってしまいました。
デートをしました。

I先輩はわたしに海岸で先輩の音楽を聞かせました。
真夏の日に。

わたしを連れて、わたしの前で聞かせてくれました。
声をひそめて忍び込んだ先で。

彼はわたしの憧れでした。

わたしは色んなエッチなことをしました。
先輩を縛ったり、お尻に指をいれたりしました。

わたしが男の人の射精するところを見たのは、I先輩が初めてでした。
わたしが男の人の頬をつよくぶったのも、彼が初めてでした。

そうしてるうちに気付いたらI先輩はわたしのものになっていました。




わたしとIが別れたのは、チャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトを聞きに行った日でした。




「夢は、僕と出会って恋からSMへと関係が変わっていって、それを別々にしなければならないと決めた。でも、今それを一緒にしてると思うと、なんだか相手の男がずるく思えて無性に腹立つんだよ。」

とIは言いました。

「まるで、逆走だ。」
「でも、Iとの経験があって今があるんだよ。」
「それはわかっているけど」


「夢のことをね、追いかけるのを僕はいつの間にかやめたんだ。もうやめたんだ。
夢は、僕とは別の星に生きているんだと思ってね。
僕には夢の星へ行く宇宙服がないんだ。
そう思ってあきらめたのに。」


わたしは、結局Iがなにを話したかったよくわかりません。
I自身もわかっていないようでした。
でもなんとなくわかった気もしています。

ただ、私はかつての憧れのI先輩の口振りを懐かしく、味わっていました。



あの時、火事が起きたのはわたしの心だったようでしたが
今はそれは鎮火しているのです。

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