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私のことが好きだというその男Aは、奴隷になるならこれからも会ってもいいよという言葉に
フラフラとやって来て、その運命が決まったのだ。

この間まで、私は彼と抱きしめあっていたのに
唇を重ねていたのに
今はつま先にしか許されない。

私は彼を離したくはなかった。
好きなままでいさせて、もっとさせて壊してしまいたかった。
そう思わせる程の魅力を彼は持っていたのだ。


新しくできた彼氏の部屋のチャイムが鳴る。
約束の時間よりも4分遅れた。
扉を開けると息を切らして、謝る頬に手を振り上げる。

「入りなさいよ。」

その場に正座をさせて、まだ肩を揺らすAの髪を掴み上げるがAは目を合わせない。

「私が来いって言ったら、すぐに来なさいと言ったでしょ。」
「…ごめんなさい。」
「無茶言ってるのなんてわかってるのよ。できないなら、できないでいい。」
「…。」
「嫌なら帰りなさい。」

そう言っても帰らないのを知っているから、私は言う。
そう言っても帰らない姿を確認したくて、私は言うのだ。

これは一種の愛情確認だ。
愛してると囁き合う代わりの行為なのだ。

「嫌じゃないです。」

背をむけて、おいでという言葉に体を小さくしてAは扉を開ける。
そこには当然彼氏がいる。

「…こんにちは。」

挨拶を向けられた、そのソファの横にスルリと座って
足元に正座をさせる。

タメ口で話すことはおろか、隣に座ることも許されない。
彼はその落差に一体どう思っているのだろうか。
そう考えるとワクワクしてきてしまう。

Aも悲しみや、悔しさややるせなさやを抱えながら、快感に似たものを感じているに違いない。
落ちていく、怪しい魅力に捕まえられているだろう。

彼氏は私の肩を抱き寄せるとAの肩に足を載せた。
そういう時の、弱々しい惨めとも表現できる瞳が私は好きだ。

「お前こんなこと繰り返してていいの?お前はもう抱き締めることもできないんだよ。」

そう言って彼氏は私をよけいに引き寄せて、キスをした。

「よく黙って見てられるな。まだ好きなの?」

まだ好きというより、もっと好きになっているだろう。

「ほら、足舐めてもいいよ。」
それを横目で見ながら私は彼氏とキスを続けた。


キスを止めても、制止がかかるまでAは足を舐め続けた。

「どんな気分?そんなになってまでも私の足を舐めてたいの?最低だね。」

そう、そういう目が好き。

「嬉しいの?こうされるのも嬉しいの?」
足に力を入れて顔を踏みつけてもAは抵抗しない。
好きなように足で弄ばれる。

彼氏の笑い声が響いて、もっと私を盛り上げた。
反対側の足で股間を踏みつけるとそれは堅い踏み心地をもっていた。

両足ともを離して、じっくりと見つめて唾をその顔に吐きかけた。

「変態。」

私ができる限りの蔑みの声と表情を使って、もう一度床に唾を吐きかける。

「ほら、いいよ。」

Aは床に出された唾をキレイに舐めとった。

「何度見ても無様だよな。男として恥ずかしくないのかね。俺だったらできないよ。」

彼氏は私をソファに倒すと、そのままセックスに持ち込もうとするようだった。
Aを呼んだ時点でわかっていたことだ。見せ付ける為に呼んだのだから。

肌の上ではじける音を聞きながら、Aは自分の膝を見つめていた。
「こっちを見ていないとダメよ。」

彼氏の手や唇が私の身体に触れるのをよく見て確認しないとダメ。
Aの顔は私の唾液で濡れて光っていた。


愛撫の後に、私は彼氏のを舐める。
それは私が愛撫される以上にAにとっては辛いことのようだった。

「早く…欲しい。」

甘い甘い声を出す。
それはAの為に出されたため息だ。
甘いため息でAを引っ掻く為だ。

「お前よく見ていろよ。」
彼氏が私に入ってくる間に、愛してると呟いた。

Aの瞳には涙が流れて、苦しそうな顔で唇を噛みしめていた。

「オナニーしてごらん。」

激しい感情の最中、自分を見失うような時でも私の言葉は届くようだった。
寧ろ私の言葉しか届かないのではないだろうか。
操られるように、Aは手を動かした。

「ああ…」
「いいって言うまでイくなよ。」

私の嬉しさの声の隙間に泣き声が埋まる。
その泣き声が高まると、私も何処にいるのかがわからなくなって、ただ心が気持ちいい。


「ああ、イく」
彼氏が強く動くと、私は大きな声を出した。
恨むように私を見るAと目が合う中、彼氏は果てた。

抱き締め合って、髪をなであう横では、なんの声なのかわからない声をあげてAは必死に手を動かしている。
顔は濡れているが、私の唾液なのか涙なのかは最早わからない。

私は腕に抱かれて
「イってごらん。」
と言った。




「ありがとうございました。」
彼氏がシャワーに立った後、汚れた身体を折り曲げて言う。
髪を掴んで見えた顔の涙の痕を、私は好きだと思う。

その身体を抱き締めて
「また、おいで。」

と言ったら、今までで一番大きな声をあげて泣いて私の肩に顔を埋める。

もっと好きになるだろう。

誰が?
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