2015.09.09
A2Z-M 口
「どうやって私がここへ来ていたって知ったの?」
窓からは首都高速を走る車達が見下ろせます。
夜なのに外の方が店内よりも明るいかもしれません。
私はソファに腰を掛けると、Mを眺めました。
先日この店を訪ねた後、公開しているフリ―アドレスへ、メッセージが届きました。
『夢子さんがいらしていたんですね』
「ここからの景色が載っていたから。」
私とMを照らすのは、その景色からの明かりでした。
「なにか飲み物を作ってよ。」
今、物語が始まるような予感。
始まりを焦らすように、私は言葉以外のなにかを口にしたくなりました。
「…何にされますか?」
「ダイキリ」
ダイキリは、私がお酒を飲み始めたころバーで覚えたお酒でした。シェイクするお酒をつくって欲しいと言って最初にでてきたものです。
カウンターから音が響きます。
初めてここへ来たときに交わした言葉を私は覚えています。
Mも私が何を最初に飲んだのかを覚えています。
一番目に口にするそれは、それを間にした二人のあらすじが進むごとに重要な、始まりの象徴へと変化していくように思います。
シャイカーからグラスに注がれるダイキリを見たあとでもう一度Mを見上げました。
彼はネクタイを閉めたままです。
これはMを知ってから一番目のお酒。
「座ったら?」
私はMについて、簡単に聞きました。じっと見つめると言葉をつまらせながら話をします。
ダイキリがなくなる頃には、この男を私で占めてしまいたいと思いました。
思考が消えて、言ったこと、したことを疑いなく信じて動くように。
二番目に差し出された赤ワインが冷えていたので、常温のほうが好きなことを伝えると、Mは大ぶりのワイングラスを両手で包みました。
冷えた赤い液体が手の中で泳いでいます。
「あったまった?」
「…いいえ」
口の中ではオランジェットが溶けています。
私はMの顎をつかんでそれを注ぎました。
Mの手からグラスを取って、代わりに空いた口に、まだ冷えたフルボディの赤ワインが入ります。
「脱いで」
「全部ですか?」
全部。Mは驚いています。
ネクタイが解かれたあとにベスト。シャツ。靴。靴下。ベルトが外されて、ズボン。
魔法が使えるような心地よい錯覚が生まれます。
パンツには私が指をかけました。おろして、堅くなったそれを握ると笑みがこぼれてしまいます。
次に何が起きるのかを怯えるように、だけど受け入れることをあきらめたような瞳。
恥ずかしいです、と小さな声が聞こえます。
私はカウンターの上に座りました。
「舐めてごらん。お前が這いつくばって舐めるんだよ。」
男に這い蹲らせて、靴を舐めさせるのが私は好きです。それには、カウンターの高さはちょうど良いです。
次は左足。左足は、組んだ下側なので、もっと低くならないとなりません。ほぼ見上げるように。
ハイヒールをつま先にかけてそれを揺らします。夜が明けてきて、カウンターと反対側の奥の空が明るくなってきています。
つま先からハイヒールが落ちます。
唾液で濡れていく足越しのMの顔は逆光でよくわかりませんでしたが、この景色は快感の完成形のようです。
「ここに横たわって」
カウンターから降りて、顔を挟むように跨いでから私はパンツを降ろしました。
足首までのスカートの裾の下へ顔が見えます。
「したこと、ある?」
「初めてです。」
そのまま腰を下ろしてスカートをたくし上げるとMの手が太ももに添えられました。
口から溢れてしまった分が床に広がって、Mの髪が濡れていきます。
私はすべてを出し切ってから、濡れた顔を確認し、そこへ座りました。
このまま沈んでしまったらいいのに。
窓からは首都高速を走る車達が見下ろせます。
夜なのに外の方が店内よりも明るいかもしれません。
私はソファに腰を掛けると、Mを眺めました。
先日この店を訪ねた後、公開しているフリ―アドレスへ、メッセージが届きました。
『夢子さんがいらしていたんですね』
「ここからの景色が載っていたから。」
私とMを照らすのは、その景色からの明かりでした。
「なにか飲み物を作ってよ。」
今、物語が始まるような予感。
始まりを焦らすように、私は言葉以外のなにかを口にしたくなりました。
「…何にされますか?」
「ダイキリ」
ダイキリは、私がお酒を飲み始めたころバーで覚えたお酒でした。シェイクするお酒をつくって欲しいと言って最初にでてきたものです。
カウンターから音が響きます。
初めてここへ来たときに交わした言葉を私は覚えています。
Mも私が何を最初に飲んだのかを覚えています。
一番目に口にするそれは、それを間にした二人のあらすじが進むごとに重要な、始まりの象徴へと変化していくように思います。
シャイカーからグラスに注がれるダイキリを見たあとでもう一度Mを見上げました。
彼はネクタイを閉めたままです。
これはMを知ってから一番目のお酒。
「座ったら?」
私はMについて、簡単に聞きました。じっと見つめると言葉をつまらせながら話をします。
ダイキリがなくなる頃には、この男を私で占めてしまいたいと思いました。
思考が消えて、言ったこと、したことを疑いなく信じて動くように。
二番目に差し出された赤ワインが冷えていたので、常温のほうが好きなことを伝えると、Mは大ぶりのワイングラスを両手で包みました。
冷えた赤い液体が手の中で泳いでいます。
「あったまった?」
「…いいえ」
口の中ではオランジェットが溶けています。
私はMの顎をつかんでそれを注ぎました。
Mの手からグラスを取って、代わりに空いた口に、まだ冷えたフルボディの赤ワインが入ります。
「脱いで」
「全部ですか?」
全部。Mは驚いています。
ネクタイが解かれたあとにベスト。シャツ。靴。靴下。ベルトが外されて、ズボン。
魔法が使えるような心地よい錯覚が生まれます。
パンツには私が指をかけました。おろして、堅くなったそれを握ると笑みがこぼれてしまいます。
次に何が起きるのかを怯えるように、だけど受け入れることをあきらめたような瞳。
恥ずかしいです、と小さな声が聞こえます。
私はカウンターの上に座りました。
「舐めてごらん。お前が這いつくばって舐めるんだよ。」
男に這い蹲らせて、靴を舐めさせるのが私は好きです。それには、カウンターの高さはちょうど良いです。
次は左足。左足は、組んだ下側なので、もっと低くならないとなりません。ほぼ見上げるように。
ハイヒールをつま先にかけてそれを揺らします。夜が明けてきて、カウンターと反対側の奥の空が明るくなってきています。
つま先からハイヒールが落ちます。
唾液で濡れていく足越しのMの顔は逆光でよくわかりませんでしたが、この景色は快感の完成形のようです。
「ここに横たわって」
カウンターから降りて、顔を挟むように跨いでから私はパンツを降ろしました。
足首までのスカートの裾の下へ顔が見えます。
「したこと、ある?」
「初めてです。」
そのまま腰を下ろしてスカートをたくし上げるとMの手が太ももに添えられました。
口から溢れてしまった分が床に広がって、Mの髪が濡れていきます。
私はすべてを出し切ってから、濡れた顔を確認し、そこへ座りました。
このまま沈んでしまったらいいのに。