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2010.09.08
A2Z-D 掌の檻
男の子は私の指に指をしっかりと絡ませて、逃げてしまわないかのように引き寄せた。
そうしなくたって私は逃げないし、もし逃げたいとしたら、そんな拘束じゃ引き留められない。
そうやって夜の道玄坂を下った。
渋谷のラブホテルに来るなんて、何年ぶりだろう。
「いいところ知ってる?」
「うん、そこ左入ってすぐ」
信号で止まるとDはおどけたような表情を作ってみせた。
「誰と来たの?」
私はそれに負けじと、微笑み返して
「何人とも来たからわからない。」と言った。
酔いが身体中に浸透して気持ちよくて、私はそれをベッドに放り投げた。
だけど私は身体中に浸透しているそのアルコールが何かわからない。
食後酒は、いつも何を飲んだか覚えていないのだ。
ただ、あのお店であの時飲んだあれは美味しかったという記憶しか残っていない。
名前を聞いても、酔った頭ではそれが覚えてられないのだ。元から覚えるつもりもないのかもしれない。
もう二度と同じお酒が飲めない気がして、私はその刹那っぽさも好きだから。
どうしようもない。
この快感に浸った身体に、これから更に快感が与えられたらさぞかし気持ちいいだろう。
と、予感に笑みがもれる。
Dの指が身体に伸びて絡む。
それは、本当に気持ちいい。
あのトロリとして甘くて強いお酒が好き。
「どうしてこんなになってるの?」
「気持ちいいから、気持ちいいこと好き」
「好き?」
「好き。」
「何が好きなの?」
言葉にさっきまでの表情と違うものがあったから、見てみるとそこには眉をひそめたDの顔があった。
私の好きな表情。
「何が?」
「…Dのことが好きだよ。」
「俺のどこが好き?、ねぇ、」
私は短く区切るようにして、声を漏らした。その間にDの声が聞こえる。
「…わかんない、」
「どこが?」
言わないなら、というようにDの指が弱点を撫でていく。
酔いと快感で回らない頭は上手いことが何も言えそうにない。
もしかして、その本音を狙って聞いてる?
「ないしょ」
何か決定的なことを言ってしまいそうで、恐くて、私は何も言えなかった。
「俺は本当のことしか言わないよ。夢ちゃんのことが好き、
好き」
「…私もだよ。」
「でも、一番じゃないでしょ?」
パチリと目が合う。
もう何度も繰り返してきた問いだから、私は素に返ったように、おかしくて笑い声をもらした。いつものように。
「ふふ、そんなこと」
「知ってる。一番じゃないの知ってる。だけど、俺は夢ちゃんのこと一番好き。」
また快感に引き戻されて、喘いだ。
「ひどい、ひどい。
こんなに好きにさせられて、生殺しだ。」
傷付いたような表情を浮かべるDに抱かれるのが私は好きだ。
私はこの男の子を深く悲しませることも、苦しませることも、喜びを与えることもできる。
そうしないで好きなようにされて、腕の中で悶えて、熱情をぶつけられ注がれるのが気持ちいい。
「いつまで続くの」
「ずっと、」
「ずっと生殺し、こんな風に?」
そうして、私の身体を指が動く。
これってどちらが責められてるいるんだろうか。
ずっと生殺し。
気が狂って壊れるギリギリまで苦しませて私は快感を得るつもりだよ。
私の手の中で、喘ぎ悶えて、弄ばれればいい。
そうして最後には壊れて捨てられればいい。
その選択しか既にないのだけどね。
もう檻の扉は閉まっている。
そうしなくたって私は逃げないし、もし逃げたいとしたら、そんな拘束じゃ引き留められない。
そうやって夜の道玄坂を下った。
渋谷のラブホテルに来るなんて、何年ぶりだろう。
「いいところ知ってる?」
「うん、そこ左入ってすぐ」
信号で止まるとDはおどけたような表情を作ってみせた。
「誰と来たの?」
私はそれに負けじと、微笑み返して
「何人とも来たからわからない。」と言った。
酔いが身体中に浸透して気持ちよくて、私はそれをベッドに放り投げた。
だけど私は身体中に浸透しているそのアルコールが何かわからない。
食後酒は、いつも何を飲んだか覚えていないのだ。
ただ、あのお店であの時飲んだあれは美味しかったという記憶しか残っていない。
名前を聞いても、酔った頭ではそれが覚えてられないのだ。元から覚えるつもりもないのかもしれない。
もう二度と同じお酒が飲めない気がして、私はその刹那っぽさも好きだから。
どうしようもない。
この快感に浸った身体に、これから更に快感が与えられたらさぞかし気持ちいいだろう。
と、予感に笑みがもれる。
Dの指が身体に伸びて絡む。
それは、本当に気持ちいい。
あのトロリとして甘くて強いお酒が好き。
「どうしてこんなになってるの?」
「気持ちいいから、気持ちいいこと好き」
「好き?」
「好き。」
「何が好きなの?」
言葉にさっきまでの表情と違うものがあったから、見てみるとそこには眉をひそめたDの顔があった。
私の好きな表情。
「何が?」
「…Dのことが好きだよ。」
「俺のどこが好き?、ねぇ、」
私は短く区切るようにして、声を漏らした。その間にDの声が聞こえる。
「…わかんない、」
「どこが?」
言わないなら、というようにDの指が弱点を撫でていく。
酔いと快感で回らない頭は上手いことが何も言えそうにない。
もしかして、その本音を狙って聞いてる?
「ないしょ」
何か決定的なことを言ってしまいそうで、恐くて、私は何も言えなかった。
「俺は本当のことしか言わないよ。夢ちゃんのことが好き、
好き」
「…私もだよ。」
「でも、一番じゃないでしょ?」
パチリと目が合う。
もう何度も繰り返してきた問いだから、私は素に返ったように、おかしくて笑い声をもらした。いつものように。
「ふふ、そんなこと」
「知ってる。一番じゃないの知ってる。だけど、俺は夢ちゃんのこと一番好き。」
また快感に引き戻されて、喘いだ。
「ひどい、ひどい。
こんなに好きにさせられて、生殺しだ。」
傷付いたような表情を浮かべるDに抱かれるのが私は好きだ。
私はこの男の子を深く悲しませることも、苦しませることも、喜びを与えることもできる。
そうしないで好きなようにされて、腕の中で悶えて、熱情をぶつけられ注がれるのが気持ちいい。
「いつまで続くの」
「ずっと、」
「ずっと生殺し、こんな風に?」
そうして、私の身体を指が動く。
これってどちらが責められてるいるんだろうか。
ずっと生殺し。
気が狂って壊れるギリギリまで苦しませて私は快感を得るつもりだよ。
私の手の中で、喘ぎ悶えて、弄ばれればいい。
そうして最後には壊れて捨てられればいい。
その選択しか既にないのだけどね。
もう檻の扉は閉まっている。
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